米津玄師の音楽には、どこか現実とは異なる世界の気配がある。
不思議な生き物、見知らぬ風景、孤独を抱えた登場人物。そうした表現の背景には、幼い頃から触れてきた漫画やアニメ、そしてゲームの存在がある。
本人のインタビューをたどると、特に興味深いのが『ワンダと巨像』『FINAL FANTASY XII』『UNDERTALE』という3作品だ。
それぞれが彼の創作や価値観に、どのような形で関わっているのだろうか。この記事では「架空の世界を通して自分自身を見つめる」という視点から、米津玄師自身の発言と作品の公式資料を読み解く。
ゲームは、現実の自分を見つめるもう一つの場所
米津玄師は子どもの頃から、現実には存在しない世界への憧れが強かったという。
2023年のインタビューでは、一人で本を読んだりゲームを遊んだりしながら空想を広げていた幼少期を振り返っている。さらに、ファンタジーには現実と切り離せない部分があり、空想の物語を通して初めて見えてくる現実もある、という趣旨の考えを語った。
現実から遠く離れた物語に、自分の気持ちを発見することがある。そう考えると、彼がゲームから受けた影響は、単なる娯楽や音楽の技法の話ではなさそうだ。
出典:Billboard JAPAN|米津玄師『FINAL FANTASY XVI』インタビュー
1.『ワンダと巨像』|10代の孤独と重なった、広い世界
米津玄師が『ワンダと巨像』と出会ったのは10代の頃だった。
音楽ナタリーのインタビューによると、友人から借りた『ICO』をきっかけにゲームクリエイター・上田文人の作品を知り、その後『ワンダと巨像』を友人と一緒に発売日に買いに行ったという。
彼はこの2作品を、自身の創作において重要な存在だと語っている。特に影響を受けたものとして挙げたのは、アートデザインや異国のような世界観だった。

自分と違う物語なのに、「自分のこと」だと感じる
『ワンダと巨像』は、魂を失った少女を救うため、青年ワンダが巨像に挑むアクションアドベンチャーだ。
米津玄師は当時、自我が芽生え、孤独を意識する年頃だったと振り返っている。異世界を進む主人公の姿に、自分自身の感情と重なるものを見いだしたという。
興味深いのは、物語の設定が自分の人生と似ていたわけではないことだ。現実にはあり得ない世界でも、そこに自分の感情が映ることはある。

音楽以外の表現にも残った影響
『ワンダと巨像』からの影響は、世界観だけにとどまらない。
米津玄師は当時のパッケージや説明書の造りにも強く惹かれたと語り、自分のCDを「手に取ったときに面白いものにしたい」と考える感覚にも、あの体験が関係しているのかもしれないと振り返った。
音楽を作るだけでなく、作品をどう届けるか。目で見て、手で触れたときの印象まで含めて考える。その美意識をたどるうえでも、大切なゲームなのだと思う。
本人の発言:音楽ナタリー|米津玄師『ワンダと巨像』インタビュー
作品を知る:PlayStation公式|『ワンダと巨像』
作品に触れてみたい人へ:2018年にはPS4向けのフルリメイク版が発売されている。
2.『FINAL FANTASY XII』|空想の世界で暮らした高校時代の夏
米津玄師は『FINAL FANTASY』シリーズを子どもの頃から遊んでいた。
なかでも『FINAL FANTASY XII(FF12)』については、ファミ通のインタビューで、高校時代の夏休みに長い時間をかけてプレイした思い出を語っている。
そのときの感覚は、ゲームの世界で生活しているようなものだったという。大人になっても、豊かな記憶として残っているそうだ。

ゲームの中に、自分の居場所のような感覚が生まれる
『FF12』の舞台は、魔法や飛空艇が存在する架空の世界「イヴァリース」。異なる国家や人々の思惑が交差し、物語が進んでいく。
ゲームは物語を眺めるだけでなく、自分の操作で世界を歩き、そこで時間を過ごせる。好きな街に立ち寄ったり、遠くまで冒険したりするうちに、架空の場所が親しい風景になることもある。
もちろん、『FF12』の特定の場面が米津玄師のどの楽曲に直接影響したのかまでは確認できない。無理に曲と結びつける必要はないだろう。
ただ、彼が空想の世界を深く愛し、『FF12』の記憶を長く大切にしてきたことは、本人の言葉から確かめられる。
『FF16』の主題歌を担当するより、ずっと前から
米津玄師は2023年、『FINAL FANTASY XVI』のテーマソング「月を見ていた」を担当した。
しかし、彼とシリーズの関係は仕事のオファーから始まったわけではない。『FF12』の高校時代の記憶は、仕事になる前からゲームが彼の生活に根づいていたことを示している。
ここではタイアップの実績ではなく、本人が一人のプレイヤーとして何に惹かれてきたかを大切にしたい。
本人の発言:ファミ通|米津玄師が語る『FINAL FANTASY』の原体験
作品を知る:SQUARE ENIX公式|『FINAL FANTASY XII』
作品に触れてみたい人へ:2006年発売のオリジナル版をもとに、映像やゲームデザインを調整した『THE ZODIAC AGE』も発売されている。
3.『UNDERTALE』|「ごめんね」が生まれるきっかけになったゲーム
2018年に発売されたシングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』には、「ごめんね」という楽曲が収録されている。
この曲がゲーム『UNDERTALE』と関係していることは、ファンによる推測だけではない。
米津玄師は2018年のNYLON JAPANのインタビューで、『UNDERTALE』をきっかけに「ごめんね」が生まれ、ゲームの非公式なイメージソングを作るような気持ちで制作したことを明かしている。
つまり「ごめんね」は公式タイアップ曲ではない。彼が一人のプレイヤーとして作品に出会い、そこから生まれた歌だ。
相手への接し方を、自分で選べるRPG
『UNDERTALE』は、Toby Foxが制作したロールプレイングゲーム。地底の世界に迷い込んだ主人公が、さまざまなモンスターと出会う。
特徴的なのは、目の前の相手を必ずしも倒す必要がないこと。戦う以外にも、相手への接し方を選ぶ仕組みがある。

選択によって物語の展開も変化するが、その先の出来事についてはここでは触れない。米津玄師本人も、作品の内容についてはネタバレを避けながら語っていた。
歌詞のすべてをゲームの出来事に当てはめない
「ごめんね」を『UNDERTALE』と重ねて聴くと、これまでとは違う感情を受け取る人もいるだろう。
ただし、ゲームから着想を得たからといって、歌詞のすべてが特定の登場人物や場面を指していると断定することはできない。
作品に触れたとき、人は自分の記憶や経験を重ねる。同じゲームを遊んでも、誰の言葉が残るか、どんな気持ちになるかは人によって違う。
米津玄師にとって『UNDERTALE』が楽曲のきっかけになったという事実は、そのままで十分に興味深い。
ゲームを知れば、歌の新たな聴き方が生まれるかもしれない。反対に、ゲームを知らなくても「ごめんね」という一曲に自分なりの気持ちを重ねていい。
本人の発言:NYLON JAPAN|米津玄師「ごめんね」制作インタビュー
作品を知る:『UNDERTALE』日本語公式サイト|ゲーム紹介
作品に触れてみたい人へ:日本語版は複数の機種で提供されている。ネタバレを避けて楽しみたい人は、まず公式の紹介ページを確認するといいだろう。
3つのゲームに共通する「自分を知るための物語」
『ワンダと巨像』では、遠い世界の物語に10代の自分の孤独を重ねていた。
『FF12』では、架空の街や物語に深く没頭した高校時代の記憶を持っている。
『UNDERTALE』では、ゲームとの出会いが楽曲「ごめんね」の誕生につながった。
もちろん、これは本人が3作品を一つの思想として説明したという意味ではない。それぞれのインタビューを読み合わせたときに見えてくる、この記事独自の視点だ。
人は自分自身を理解するとき、必ずしも自分の経験だけを振り返るわけではない。誰かの物語に触れて、初めて自分の感情に気づくこともある。
見知らぬ世界への憧れ、そこに映る孤独、異なる相手を前にした選択。そうした体験が、現実の自分と向き合うきっかけになる。
米津玄師が大切にしてきたゲームをたどることも、彼の表現を知るだけでなく、読む人自身の感性を確かめる小さな入口になるのかもしれない。
まとめ|誰かの大切な作品から、自分自身を見つめる
今回紹介した3作品には、異なる役割があった。
- 『ワンダと巨像』:10代の孤独と重なり、美意識にも影響した作品。
- 『FINAL FANTASY XII』:空想の世界で長い時間を過ごした、高校時代の豊かな記憶。
- 『UNDERTALE』:楽曲「ごめんね」を生み出すきっかけになった作品。
これらのゲームを遊べば、米津玄師の気持ちがすべて理解できるわけではない。
ただ、本人が何を大切にしてきたのかを知り、その作品に触れて、自分なりの何かを感じ取ることはできる。
誰かを理解しようとすることが、自分自身を知るきっかけにもなる。この記事も、そんな一つの入口になればと思う。
米津玄師の人生や音楽について、もっと知りたい人へ
この記事では、ゲームが感性や創作に与えた影響を中心に紹介した。米津玄師がどのような道を歩み、自身の特性や孤独について何を語ってきたのかは、第一層の記事で詳しくたどっている。
米津玄師はなぜ孤独を感じていた?自閉症・うつを語った過去と、音楽が変わった理由を本人の言葉でたどる
音楽とゲーム。その両方から見つめると、米津玄師という表現者の姿が、また少し違って見えるかもしれない。



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